石破首相が誕生した自民党総裁選で話題になった”金融所得課税強化”。
NISAが始まったばかりで、すぐに金融資産に課税するの!?と混乱される方も多いのではないでしょうか。
この記事では金融所得課税の概要と、なぜ度々公約に上がってくるのかを解説します。
国はお金持ちに課税したい
金融所得課税は、要するに金融投資で儲けた人への課税です。
給与所得や事業所得は、累進課税制度が適用されており、所得の高い人ほど税率が高くなります。所得により5%~45%税率が決まっており、課税所得金額が4000万円を超えると45%の税率が課せられます。よくプロ野球選手が年俸の半分は税金にとられると言われる理由は累進課税制度にあります。
対して、金融所得とは株式や投資信託、FXなどの金融商品で得た利益のこと、累進課税制度は適用されず、税金は一律で所得税15%、住民税5%、復興特別税0.315%の合計20.315%が徴収されます。NISAやiDeCoはこの課税対象から外れ、非課税で運用できる点が特徴です。
金融所得課税の話で「1億円の壁」という言葉が頻繁に出てきます。これは、所得が高い人ほど金融資産の割合が高く、所得が1億円を超えたあたりから所得税の負担率が低下することで、一律の金融課税が原因とされています。
「FP関根のお金とビジネス いま伝えたい話」のvoicyでわかりやすい例が挙げられていたので紹介します。日本を代表する経営者ソフトバンク孫社長とユニクロ柳井社長の収入の内訳です。ソフトバンク孫社長は年収188億円で、役員報酬1億円、金融所得187億円で、ユニクロ柳井社長は年収140億円、役員報酬4億円、金融所得136億円とされています。所得税45%が課せられる役員報酬が少なく、税率20.315%が課せられる金融所得が圧倒的に多いです。当然お二人とも会社が大きくなるまで相当な苦労をされているため一概に不公平とは思わないですが、金融所得が優遇されているかわかりやすい例でした。
岸田前首相も金融課税強化は公約の一つとして掲げていましたが、日経平均株価下落し早々にトーンダウンしました。石破首相も同様で金融所得課税に前向きな姿勢を示していましたが、就任後は選挙を見据えて、「具体的に検討していない」と方針転換しています。
日本の格差は広がっている
なぜ、政府は金融所得への課税を強化したいのか?それは金格差是正効果が高いとされるからです。資産をもとにした富は、労働で得られる富よりも蓄積が早いとされており、資産を多く保有している富裕層はより豊かになり、賃金労働者と格差が広がると言われています。トマピケティが21世紀の資本で提唱した「r>g」が有名ですね。
日本でも格差が広がっていると言われています。
所得格差を示すジニ係数と呼ばれる指標があります。0から1の間をとり、係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示します。日本ではジニ係数が0.38で、自由主義的政策のアメリカに近づいているとされます。
そして、所得格差が広がるとどうなるのか?
所得格差が広がるとどうなるのか?まず挙げられるのは、貧困の連鎖に繋がるということです。例えば、教育格差で、所得の高い世帯ほど学校外教育に多くを支出できるとの研究結果があります。ソニー生命の「子どもの教育資金に関する調査2024」では、子どもの学力や学歴は教育費にいくらかけるかによって決まると感じる割合が63.9%となりました。所得格差が学力格差に繋がる悪循環を発生させる可能性があります。他にも、社会的不和の高まりにより暴力や紛争が起こりやすい、経済の停滞などが挙げられます。
尚、日本は欧米主要国に比べて格差が小さいとされています。アメリカは上位1%の金融資産は国民全体の4割、イギリスでは2割と富裕層に富が集中しています。11月のアメリカ大統領選挙は、富裕層への課税に賛成派のハリス氏、反対派のトランプ氏どちらが勝利するかで動きがあると思われます。
“超”富裕層への課税は2025年から始まる
2025年から「ミニマムタックス」という制度が導入されます。課税対象者は200人~300人程度と対象が限られるため、あまり話題になることはありませんが、これは“超”富裕層に対する課税強化と言われています。具体的には、合計所得30億円を超える人を対象に、合計所得金額から特別控除額である3.3億円を引いた金額に、税率22.5%を掛けた金額を追加課税する仕組みです。税収は300~600億円程度とされています。
今後は所得金額を段階的に下げていく噂もあり、石破首相は課税により富の再分配に前向きな姿勢ですので、金融所得課税強化を今後どの範囲まで広げるか注意が必要です。
NISAやiDeCoの範囲内であれば影響はないはず、、
仮に金融所得課税が強化されても、NISAやiDeCoの範囲内は影響ないと思われます。それは、石破首相「新NISAやiDeCoの税を強化することは毛頭考えていない」と発言されており、低所得や中間層への投資に一律で増税することは無いと言えるでしょう。
特に2024年から始まった新NISAは非課税期間が無期限化され、制度が恒久化されたばかりで、この制度をすぐに変更するようであれば政府の信頼が地に落ちることになります。また、少子高齢化が続く日本で将来の年金制度が不透明なため、「貯蓄から投資」で自助努力を促す制度改正を行ってきました。この政策と逆行するため、低所得や中間層への投資課税は今後も考えにくいでしょう。
ただし、NISA外つまり金融所得が1800万円を超える範囲は課税対象になる可能性はゼロではありません。野党の立憲民主党・野田代表でさえも「20%から25%ぐらいを含めて税率を高めることはありえる」と発言されており、富裕層だけの話では無くなってきました。
引き続き金融所得課税強化は注視して、賢く資産形成をしていきましょう。
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